物語でのプロスペクト理論の登場


プロスペクト理論ってご存知ですか?行動経済学うんぬんとか。
例によって例のごとく、詳しくはググッたり専門書にあたってもらうとして、
概要はこんな感じ↓



それぞれの問題で、どちらかを選んでください。


問一
1 確実に80万円損する。
2 85%の確率で160万円損するが、15%の確率で何も損しない。


問二
3 確実に80万円を貰える。
4 85%の確率で160万円貰えるが、15%の確率で何も得られない。



この選択時にかかる心理バイアスを問題にするのですね。
位置付け的にはゲーム理論の次みたいな感じかもしれません。
ギャンブル漫画とかにはそのままこれが出てくるのですが、いわゆる意思決定の方法ってことです。


1と4が数学的に有効な解なんですが、心理バイアスが掛かってしまうと2と3が絶対的な正解に見えてしまうという話です。
なんで1と4が有効なのかと説明すると確率の話*1とかで面倒なので割愛しますが(笑)、「損は小さく、得は大きく」というのが基本なのです。こう聞くと当たり前のことで納得しやすくても、ちょっと上のように条件が変化すると心理的なバイアスがかかって合理的な選択ができなくなる、と。




これを物語に応用した例を、以前にLOSTのシーズン1で見たことがあります。



状況としては、
敵に「●という人物を差し出せ、従うまで誰かを一人ずつ見せしめに殺すぞ?」と言われます。この敵に煮え湯を飲まされたこともあり、殺したくなるほど憎いと思っている仲間がいます。


構造としてはこうなっています。


1.●を差し出す
(確実な損で済ませる)


2.敵に本当に襲われるかわからないので、警戒を強化しておく
(損をしないで済むかもしれないので、がんばってみる)



3.敵を捕まえるのは危険だから見付けたらさっさと殺してしまおう
(得は小さいが、確実な利益)


4.敵を捕まえて、情報を引き出すようにする
(予想される得は大きいが、返りうちに遭うかもしれないし、逃げられてしまうかもしれないし、情報が引き出せるとも限らないので不確実さが伴う)




上のプロスペクト理論の例題に合わせて記述したので分かりにくくなってしまっていますが、LOSTの場合は2→1→4→3のルートを通りました。
まず、●を差し出すのなんて論外だ!として、2のように警戒レベルを高めました。
しかし実際には敵の予告の通りに仲間が一人殺されてしまいます。大損ですね。
そこで、1を選びます。
……といってもお話ですので、ちょっと工夫をして●を囮に敵をおびき寄せて何とかしよう!ということになったわけです。


仲間が殺されていることもあり、憎ったらしいのですが、理性的な人物が「捕まえたら、情報を引き出そう」と提案(4)し、仲間に銃を渡します。その後●を囮に使い、首尾よく敵を捕まえることに成功します。
ここで、仲間の一人が捕まえた敵を銃で殺してしまいます(3)。復讐を遂げてしまう(=確実な利益を得ようとする)わけですね。



キャラクターの意思決定にも心理バイアスが掛かってくるわけですから、今後はこの手の構造の物語が増えてくるかもしれません。

*1:期待値の計算をすると(0.85×160)+(0.15×0)=136万円となる。一回限りなら85%だが、何度も何度も繰り返される「人生での選択の方法」みたいになると結果に大きな差が生まれることになる。