ウルトラ・ダラー(手嶋龍一 著)★3+

 
評価 星3+α
 
インテリジェンス小説。 この話はともかく話の筋が面白くない。
スーパー・ダラー → ウルトラ・ダラーといった具合で完成度が高くなり、本物と殆ど見分けも付かない精巧な「偽札」を巡る攻防戦。偽札の何が危機なのさ?という具合ではてな(?)を浮かべていると、少し謎が明かされる。北朝鮮の開発する核弾頭と巡航ミサイルとを結び付け、最後にそれが中国による日本を抑止する戦略だった(台湾海峡を挟んで米中の対立という構図で、日本を北朝鮮の核で封じるだとか)といった具合で展開する。当然、最後まで読めば、逆から考えて細部のウルトラ・ダラーからみた構図を俯瞰することが可能になるわけだ。
 
本書の凄みはその後の政治情勢をズバリと的中させた点にあるとされている。しかしそれも今となっては時期遅れの感が否めない。もっと早く読んでいればもう少し面白かったかもしれない。
プラスα部分に関しては、精緻と言って良いであろう描写の細かさにある。人物を描き、それが物語の構成に対して無駄なく働く。特に教養主義の面白さというのだろうか? 人をたらしこむ手法の一部は人間同士での快適なコミュニケーションに拠っている。
本当に完成度が高いと思わされる。 がしかし、どう持ち上げようとも面白くないものは面白くないのであった。
 
 
スパイ天国なんて言葉があるように、日本の情報・諜報分野の脆弱さは我々一般人にも有名なところである。つまり「インテリジェンス」というのはこの手嶋龍一や佐藤優らの仕掛けたカウンター・バランスなのだろう。彼らはインテリジェンスなどというカタカナ語に魔法をかけ、日本の情報戦の世界に新しい波を起こそうとしているかのようだ。最近本屋で大人気の佐藤優の胡散臭い本でも良いが、物語の形式による理解という意味で特に本書に価値が見出されるものと思う。