31の機能

 
ウラジミール・プロップ『昔話の形態学』から、「31の機能」について。
 

1<不在>―2<禁止>―3<違反>―4<情報の要求>―5<情報の入手>―6<策略>―7<幇助>―8<加害あるいは欠如>―9<派遣>―10<任務の受諾>―11<出発>―12<先立つ働きかけ>―13<反応>―14<獲得>―15<空間移動>―16<闘争>―17<標付け>―18<勝利>―19<加害あるいは欠如の回復>―20<帰路>―21<追跡>―22<脱出>―23<気付かれざる帰還>―24<偽りの主張>―25<難題>―26<解決>―27<認知>―28<露見>―29<変身>―30<処罰>―31<結婚ないし即位>―

 
えー、機能とか言っているけど、最小単位として物語の「要素」やら「因子」を抜き出したものだと思われます。
 
簡単に説明すると、8で宝物(姫とか)が盗まれたりして、11で出発。12〜14はラスボスに備えた準備で、ゲームで言うと「お使い」に相当する修行シーンみたいなのとか。16でラスボス戦。19で宝を取り戻して、20で帰路につく。23で帰ってくるんだけど、24で偽者が手柄を横取りしようとする。27の認知というのは、17の標付けが伏線になっていて、正しい主人公であることが分かる仕組みになっている。(由緒正しき伏線とその回収だね)そして30で偽主人公が処罰されて、31でめでたしめでたしと。
 
さて、難しいことは無視して、ネギまで考えていこう。しかも魔法世界編だ。
 
 

1<不在>―2<禁止>―3<違反>―4<情報の要求>―5<情報の入手>―6<策略>―7<幇助>―8<加害あるいは欠如>―9<派遣>―10<任務の受諾>―11<出発>―12<先立つ働きかけ>―13<反応>―14<獲得>―15<空間移動>―16<闘争>―17<標付け>―18<勝利>―19<加害あるいは欠如の回復>―20<帰路>―21<追跡>―22<脱出>―23<気付かれざる帰還>―24<偽りの主張>―25<難題>―26<解決>―27<認知>―28<露見>―29<変身>―30<処罰>―31<結婚ないし即位>―

 
分かり易いのは15の空間移動→16のラスボス戦。これのイメージはどっちかというとドラゴンボールで悟空が飛んでいくイメージが強いね(笑)
15の空間移動で魔法世界に入っていて、16でゲートポートでフェイト戦をやっている。あれってラスボス戦だったんだーという新しい発見がある。まぁ、確かにラスボス戦なんだけどさ。
で、負けてバラバラ離散事件になっていることを考えると、16→19で欠如の回復ではなく、16→8で欠如の方向になっていると考えられる。しかし、右肩の大穴を8の欠損や17の標付けだと見做した場合には19で木乃香による回復があったとも言える。局地的には勝利しているといおうか。こんな感じでメインラインと潜在的なラインが重層的に存在している様子。
 
で、バラバラになったネギたちはバラバラという「欠損」の回復を求めて行動を始めているのだけど、やっていることは20の帰路につくことであったりする。21の追跡というのは当然、月詠のことになるだろう。
 
一方でネギの方はラカンに師事してバカやっている頃だから、闇の魔法ゲットだぜ!の修行などは12〜14の流れになっている。一応蛇足ではあるけれど、巻物エヴァ戦も精神世界への空間移動と考えられ、17の標付けとして両手に闇の魔法の証の渦巻き紋様が付いていて、23の帰路で戻ってくる展開(いつの間にか起きてて、千雨のナイフを止める)をやっていることになる。
 

1<不在>―2<禁止>―3<違反>―4<情報の要求>―5<情報の入手>―6<策略>―7<幇助>―8<加害あるいは欠如>―9<派遣>―10<任務の受諾>―11<出発>―12<先立つ働きかけ>―13<反応>―14<獲得>―15<空間移動>―16<闘争>―17<標付け>―18<勝利>―19<加害あるいは欠如の回復>―20<帰路>―21<追跡>―22<脱出>―23<気付かれざる帰還>―24<偽りの主張>―25<難題>―26<解決>―27<認知>―28<露見>―29<変身>―30<処罰>―31<結婚ないし即位>―

 
途中だがここいらで説明を追加すると、大塚氏によれば物語の大分類としては「行って・帰る」する形式の話が多いのだそうな。もしくは、欠損とその回復だとか。この「行きて帰りし物語」というのは、人生がモチーフのメタファーなのだと思われる。
これはスタート地点が問題で、天国スタートか、生きている状態からのスタートの2種類だろうと見当がつく。本質的には前者だろうね。つまり、天国スタートで越境=誕生して人生という冒険をやって、死んで天国という安心の場所に帰るっていう形式だね。これを生きている人間スタートでやると、死の国へ越境して冒険して、死の世界で死んで、日常の世界に帰ってくるって記述になるわけだ。死後の世界を乗り越えていることから、イモータルとか言われる「(死を)超越した存在」として描かれたりされ易いのではなかろうか。
 
ラカンアーティファクト「千の顔を持つ英雄」もこの手の物語の構造に関して記述があるはずだから、フェイト戦をやった当時に赤松先生が起承転結だと「転」とか日記に書いていた*1のも分かる気がする。なぜならば、31の機能からすればラスボス相当の16、その後の魔法世界という「死の国」から現実世界への帰路という20の展開になっているからだ。勿論、フェイトに勝っていないから色々と問題はあるのだけど。
 

1<不在>―2<禁止>―3<違反>―4<情報の要求>―5<情報の入手>―6<策略>―7<幇助>―8<加害あるいは欠如>―9<派遣>―10<任務の受諾>―11<出発>―12<先立つ働きかけ>―13<反応>―14<獲得>―15<空間移動>―16<闘争>―17<標付け>―18<勝利>―19<加害あるいは欠如の回復>―20<帰路>―21<追跡>―22<脱出>―23<気付かれざる帰還>―24<偽りの主張>―25<難題>―26<解決>―27<認知>―28<露見>―29<変身>―30<処罰>―31<結婚ないし即位>―

 
で、明日菜のパートとして23気付かれざる帰還が発生している。その後の24「偽りの主張」では栞との入れ替わりが発生している。「あの柱は私が全部 消しといたわ♪(どーん)」サムズアップでビシッ!と決めた228時間目-1*2で偽りの主張をしていることになるわけだ。
本来の偽りの主張というのは、16でラスボスに勝って19で欠損の回復だやら、死の国から霊薬を持ち帰る大事業に対するもので、それを横取りするためのものなのだけど、ここではヴァリアントだと考えておけばいいだろう。
 
で、現在はラカン戦なのだけど、これの解釈は普通に考えると今週分の240時間目を15の空間移動と見做して、16の闘争ということになるわけだよね。すると、修行やテオドラと仮契約なんかは12〜14だと分かる。しかし、個人的には潜在構造として25の難題なのではないかと思っている。
 
24−偽りの主張により主人公は自分自身を証明することを強く求められ、25の難題、26その解決という試練の流れと、17の標付けから27の認知〜28露見で「他者から」気付かれる(認知される)といった2つの機能によって証明される。(端折られてどっちかでもいいらしいのだけど、)大塚は26の解決では「簡単に解決してしまう」と説明しているが、それらはこれまでの冒険によって培った力を試す場所と考えていることによるのだと思う。
 
また、偽主人公という機能ではドラゴンボールでのミスターサタンが面白い。彼は主役の手柄を独り占めしてしまうのだが、主役の悟空たちが名誉を得ることに拘泥しないことによってほったらかしにされてしまう。妻となったチチなんかがヤキモキするぐらいに大金持ちになっているのだけどね。結局、名誉を得ていないことが原因でブウ戦の元気玉のところで困ったことになるのだけど、偽主人公であるサタンの呼びかけに人々が応えることで世界が救われる形式となっている。
このようにドラゴンポールでも「認知」は読者や一部の登場人物のみの特権的な出来事となっていて、特に28の露見の効果によって、サタンが偽主人公だと露見することは避けられている。ネギまでも魔法バレは出番が増えるためだかで特権的な位置づけにあるのだけど(笑)、周囲の人々に露見することは避けられている。
 

1<不在>―2<禁止>―3<違反>―4<情報の要求>―5<情報の入手>―6<策略>―7<幇助>―8<加害あるいは欠如>―9<派遣>―10<任務の受諾>―11<出発>―12<先立つ働きかけ>―13<反応>―14<獲得>―15<空間移動>―16<闘争>―17<標付け>―18<勝利>―19<加害あるいは欠如の回復>―20<帰路>―21<追跡>―22<脱出>―23<気付かれざる帰還>―24<偽りの主張>―25<難題>―26<解決>―27<認知>―28<露見>―29<変身>―30<処罰>―31<結婚ないし即位>―

 
で、魔法世界編に話を戻して、拳闘大会でのラカン戦が潜在的に難題だと予想される理由だが、これは複数ある。まず主人公がその力を証明する試練となっている点。難題というよりは超難題の気もするが(笑)
 
次にフェイトに賞金首にされてしまった身の潔白の証明に繋がる要因が絡んでいること。これは「負けた」という勝利の結果、犯罪者の汚名という「宝」を回復したということが言えるからだ。明日菜に対応する偽主人公は栞だが、ネギに対応する偽主人公はフェイトが設定した偽映像の中にいる架空の存在なわけだ。で、ネギは偽主人公による無実という偽りの主張に対して、自己を証す圧力が出てきている。それらの機能を補助するのが正体を知っているトサカの存在であったり、ブレーキとしてボトルネックになっている亜子の存在であったりするのだろう。
 

1<不在>―2<禁止>―3<違反>―4<情報の要求>―5<情報の入手>―6<策略>―7<幇助>―8<加害あるいは欠如>―9<派遣>―10<任務の受諾>―11<出発>―12<先立つ働きかけ>―13<反応>―14<獲得>―15<空間移動>―16<闘争>―17<標付け>―18<勝利>―19<加害あるいは欠如の回復>―20<帰路>―21<追跡>―22<脱出>―23<気付かれざる帰還>―24<偽りの主張>―25<難題>―26<解決>―27<認知>―28<露見>―29<変身>―30<処罰>―31<結婚ないし即位>―

 
今後の展開として予想されるのは、栞の正体が明かされること(28<露見>)や、ネギの正体がバレること(29<変身>)などだろう。もしかすると30の処罰はネギがナギから戻る際のものという可能性もあるかもしれない。それとフェイトとのラストバトルが16<闘争>ということになれば、その前の段階でなんらかの15-空間移動もあるに違いない(笑)
 
 
本来はこれら物語構造に対しても自己言及的に批判を加えなければならないのだろうけど、現段階ではそこまで応用が効かせられるほどのレベルにはないのでほどほどにしておきたい。
例えば、貴種流離譚なんかの場合だと、母親との近親相姦なんかが題材に混ざってくるらしいのだけど、これなんかは円環を閉じるための作用で、貴種、レアモノであることを維持させる力として働くわけだ。ネギまでもアリカの存在によって明日菜との関係が近親婚に近くなるのでは?と心配されたりしているのだけれど、これも貴種という物語の文脈によるものだと思われる。
この貴種の物語というのは、王の権力を強化する働きをどうしようもなく担う。王の責任から逃げたい民衆的な心理と、それでも王でいたい人々の特権的な認識を支える構造が含まれてしまうのだろう。…………だとかね。
 
守破離でいう守の段階では、受けいれるところから始まる。ありがたく使わせて頂いて、不満の残る部分に対して考察を加えられたらいいのだけどね。
 
 
とりあえず魔法世界編を見てきたのだけど、こうまで当てはまるものなんだなぁ〜と驚きを隠せない。作者の物語能力の一端を垣間見た気さえするのだが、まだまだ多くを理解出来ていないことを実感させられてしまう結果となった。ぐわんばるの嫌いなので、てきとーに流してて気が付いたらレベルアップ!って方向でなんとかやっていきとうごじゃりまする。 完

*1:2007年10月21日や同10月23日の日記など

*2:228時間目は連載時の表記で2回あったため-1とした