この空のまもり

 
 
■ この空のまもり 著:芝村裕吏(小説)
ハヤカワ文庫JA。まめたんの前に出ていた小説。これがまた、どう評価するべきか。
うん。物語としての筋はあまりよろしくない。まめたんのデキが良すぎるからこっちは強くオススメ出来ない部分はあるんだよ。あるんだけど、勉強嫌いだけど勉強したいなら読む方がいいと思われ。
 
正しく近未来SFしていて好感度は高いのだけど、リターントゥガンパレードの系列に見えて、往年のファンじゃないと意味が通じない部分はあるかもしれない。俺TUEEEE!系としても読めるのだけど、説教臭い気もする。ネトウヨが気分良く読めるかどうかは謎(笑)
 
作品の魅力がどの程度かは正直、良く分からないのだ。私は日曜の夜から始めて朝4時半ごろまでで一気に読んでしまったけれど(今日はとっても眠かったです)、そんな引き込まれる話かどうかはワカンネ。昼寝しちゃってたからあんま眠くなかったし。グイグイ読まずにいられない系ではないと思う。
視点切り替えが頻繁だから、止まっちゃう人は止まっちゃうんじゃないかな。その意味ては一気読み推奨だけど、エンタメ疲れを起こしている場合、一気読みできる作品じゃない気がする。
 
言い訳は十分したよな? もういいよね。
仮想現実の前にくる強化現実系の作品として見ると、この作品は当たっておくべき。分かりやすく言えば電脳コイルとか、東のエデンみたいなのが強化(拡張)現実系の作品。ログホラも強化現実をちょっと扱いつつある。前にもそんな話をした気がするけど、アクセルワールドみたいな仮想現実の中に入っちゃう作品だと、中に入っちゃった後は強化現実的な表現になり易いわけだ。
……で、「この空のまもり」は、2ch的強化現実世界になっちゃっている。罵詈雑言のタグが、そこら中にベタベタと貼り付けられている世界。空には中国語や韓国語でなんか貼り付けてあるのだけど、誰も何もしない。悪意が可視化されている。面白いから続きは自分で読むといいと思うんだ。
 
なんか二重化された世界で云々とか書いてあって、もっと斜め上の話かと思っていたけど、全然そんなことなかったよ。むしろ、強く現代的であるから活きる展開が目白押し。
筋の悪さという意味だと、強化現実は過去と相性がいいんだけど、そっちの方向はあまり使えていない。例えば、「場所」ってやつは過去の記憶を引き出すリンクになっていて、老人になってから引っ越すとうつになっちゃったり、死にたくなったりするらしいのね。本来その「場所」ってのは、目に見えないささいな「引っ掛かり」を提供しているわけで、場所を失えばそのリンクを丸ごと失うことになりかねない。ほぼイコールで記憶を引き出せなくなり、記憶を失うことになる。
つい先日、俺もおっかない経験をしたんだけどさー。職場で使ってるパソコンのパスワードが突然わかんなくなっちゃって。入力を手で覚えていたのだけど、文字で書こうとしから出てこないの。その日の朝、自分で入力してパソコン使ってんのに、だぜ? 文字で書こうとしたら、どうしてもパスワードが出てこないの。そんで1回わかんなくなると、手で入力しようとしてもわかんなくなっちゃってさー。足元が崩れ落ちるような喪失感とかあって、ガチでおっかなかったわー。将来アルツハイマーとかになるかも。記憶力には昔から自信ないからさー。ヤバイわー、マジでヤバイわーって感じでテンションどん底状態。もともと記憶力ないって自覚しているから、記憶力に頼らないような動き方して生きてるんだけどね。
 
まぁ、空間は時間の一形態だから、特に空間を失うと、時間も失いやすいはずなんよ。記憶は過去って時間との紐付けの問題だから、引っ越しちゃったりすると紐付けを失ったことにすら気が付かない可能性がある。長い間に蓄積していた膨大な量の過去の時間を喪失したら、そりゃ脳の処理量は自然と小さくなるから、つまらないとか寂しいとか感じやすくなると思うんよ。お年寄りが昔の話を何度も繰り返す理由ってのがこういうのと関係しているわけで。過去の栄光を思い出したり、虚飾していかないとテンションが下がっちゃうんだよね。
 
話を戻すけど、強化現実のタグってのは、この記憶のリンクを見えるようにする(可視化する)ためにあると言っても過言ではないわけ。それらの要素がほぼ捨てられちゃっているので、話の筋としてはあまり良くないとなってくる。ノスタルジーの気配ってのは、それはそれで取り扱い危険領域なので国家資格とかが必要なんだけども。ローマの街並みェ……。
 
ヒロインの謎の答えは、253ページに。